B型肝炎に対する厚労省の対応

B型肝炎に対する厚労省の対応

2006年の最高裁判決に基づく対応

2006年の最高裁判決に基づく対応 B型肝炎訴訟の救済対象となるための要件は非常に複雑かつ難解ですが、要は1941年7月2日から1988年1月27日までの間に出生している人でB型肝炎ウイルスに持続感染している人は救済対象になる可能性が十分にあると言えます。

提訴するために最も必要な具体的条件 そこで、提訴するための要件は前項で詳しく述べましたが、提訴するために最も必要な具体的条件は以下のとおりです。

B型肝炎ウイルスに持続感染していること持続感染していることがポイントで、一過性の感染では訴訟の対象とはなりません。
集団予防接種を受けたことがあること 1948年7月1日~1988年1月27日までの集団予防接種によってB型肝炎ウイルスに持続感染した場合に、国が責任を取ることになっています。戦後集団予防接種を始めたのが1948年7月1日で、1988年1月27日以降は注射針や筒の連続使用は禁止されているからです。
生年月日が昭和16年(1941年)7月2日以降であること戦後、集団予防接種を開始した1948年7月1日に7歳以下であることで、7歳になると体内の免疫機能が備わりB型肝炎ウイルスに持続感染することは無くなるという考え方が2006年の最高裁判決で採用されているからです。
出世時に母親がB型肝炎ウイルスに持続感染していないこと但し、母親の感染が集団予防接種を原因とする場合は、母子ともに原告になることができます。
他に感染原因がないこと 父親が持続感染者である場合は、父親と本人のジェノタイプが同じであれば父子感染と見なされ訴訟の対象にはなりまません。 また、1996年以降に日本にジェノタイプA型のB型肝炎ウイルスの感染例が報告されており、1996年以降に持続感染が判明した人はジェノタイプ検査が必要です。そして、検査でジェノタイプA型と判定された場合は、訴訟の対象に成らない場合があります。
ジェノタイプA型のB型肝炎ウイルスは、成人が感染した場合でも持続感染することがあるからです。 また、乳幼児期に輸血の経験が有る場合も訴訟の対象に成らない場合があります。
病態の特定
無症候キャリアー・慢性肝炎・肝硬変・肝癌を医学的に特定する必要があります。

厚生労働省B型肝炎訴訟対策室の対応とこれからの課題

2013年4月26日現在のB型肝炎訴訟の原告数は全国で8,004人に上り和解者数は2,791人となっています。訴訟の審理は2006年の最高裁判決に基づいて行なわれていますから、実質的には提訴した原告が国の救済の条件を満たしているかの事務的な作業の連続となります。

厚生労働省のB型肝炎訴訟対策室の人為的な対応次第 従って、厚生労働省のB型肝炎訴訟対策室の人為的な対応次第という一面があることは否定できません。つまり、現在のB型肝炎訴訟対策室の体制は以前の数人体制から倍増されていますが、まだまだ、訴訟件数に体制が追いついていないのが現状です。
1989年に札幌市の5人のB型肝炎感染者が札幌地裁に国家賠償を求めて提訴し2006年に最高裁判決が出るまでに17年の歳月を要しましたが、現在でも和解までに2年~3年の時間が掛かっています。
しかし、無症候キャリアーや慢性B型肝炎患者には時間的な余裕がありますが、重度の肝硬変や肝癌の患者には残された時間が限られていることも事実です。
従って、今後の課題の1つ目は和解までの手続のスピードアップが求められます。そのためには厚生労働省のB型肝炎訴訟対策室の人員の増員が最も手っ取り早い対策です。

今後の課題の2つ目は、時効(除斥)の問題 今後の課題の2つ目は、時効(除斥)の問題です。
現在の解釈では民法724条の規定により、損害の発生から20年を経過すると損害賠償請求権が消滅すると理解されています。
従って、慢性肝炎の場合、慢性肝炎と診断されてから20年経過した人の補償は制限されていますが、慢性肝炎の起算点を発病ではなく治癒した時にするべきだという意見が多いことも事実です。
現在の規定では慢性肝炎の給付金が1,250万円に対して、20年の除斥期間が経過した場合は300万円の給付となってしまいます。長期に渡って慢性肝炎で苦しんだ被害者の心情を思うと理不尽な対応と言わざるを得ません。これは肝硬変や肝癌でも同様のことが言えます。

今後の課題の3つ目は政府の推定で45万人に上る被害者への告知の問題です。
2013年4月の原告数約8,000人と提訴準備中の人を含めても1万人規模の人数です。
つまり、現在、提訴か提訴準備中の人は全体の2%に過ぎません。従って、残りの44万人の被害者への対応が大きな問題と言えます。
特に、問題なのは自分がB型肝炎の感染者だと気付いていない人達です。無症候キャリアーの場合は症状がありませんから血液検査をしないと解からない場合が多く、定期的な健康診断を受けていない自営業者やフリーター・主婦・高齢者などへの告知が課題と言えます。また、B型肝炎感染を自覚している人の中に、自分が救済対象になると理解していない人も多い筈なのです。

厚生労働省はあくまでも提訴して和解した人が救済対象 厚生労働省はあくまでも提訴して和解した人が救済対象と言っていますから、積極的に広く44万人の感染者に告知する必要は無いと考えています。このギャップを埋めることが今後の大きな課題と言えます。